小粋な輸入史展・横浜美術館
いつの世でも、人間の金儲けには多大の労苦と商魂、そしてその結果が付きまといます。今回、横浜美術館の、いわばサブ展示ともいえる『イリス150周年と近代日本と共に歩み続ける 或るドイツ商社の歴史展』(~6月7日)という、長い名前の展覧会を観て、そう思いました。
この表題にあるイリスとはドイツの商社の名称で、創設は1859年、という、いわば横浜開港と同時に発足し、現在まで150年営業し続けている商社です。
今回の横浜美術館の展示は、横浜開港した日に、居留地で最初に開業したドイツ商社『イリス』の事業の歴史を追いつつ、日本の近代化の歩みを辿る展覧会です。開港から現代に至る期間の『イリス商社』の日本への輸入品などを展示しつつ、横浜、日本の近代化の側面を見る、という、極めて面白い展覧会でした。
企画は横浜開港150周年に因んだということでしょうが、近代経済界の商社の動きという側面から、明治以降の輸入品を見る、というユニークなもので、横浜美術館の展覧会としては珍しいと思いました。
小展示室、2部屋を使った展示はコンパクトで、心効いた小さな博物館といった風情で、ゆったりと見学することができました。
展示されているのは当時の写真、書簡、記録文書、幕末明治の浮世絵、古地図、貨幣、出土品である鉄道レール、そして輸入品である銃、オートバイ(BMW R62=個人蔵で、マニアにしてみれば垂涎のもの)、懐中時計、、織機、
鋼管、ほかに、関東大震災で瓦解したイリス商社の建材として使われていたタイル(かながわ考古学財団所蔵=画像・一部)や、使用していた陶器類など約170点です。
この商社の年譜を見ていると、面白いことが書いてありました。1886年、皇居二重橋建設を請け負う。1888年10月に完成、という記述です。
皇居の二重橋についての関連記述では「江戸城西の丸下乗橋」の通称で、江戸時代、西の丸が改修された際に架けられた、とあり、堀から石垣までが高いため、橋脚を建てることが難しく、実際の橋の下に支えのための橋を設け二重としたといいます。また明治21年(1888年)、皇居造営に伴い新しい鉄橋に架け替えられると、手前の橋と重なって、二重に見えたため二重橋というようになった、とも書かれています。
この1888年に完成した鉄橋の二重橋の建設を、1886年イリス商社が請け負ったという出来事は、いわば海外に籍のある商社が、日本の象徴ともいうべき建築物を建造した、ということで、何とも不思議な感じがします。当時は、競争入札などは行われたのだろうか、日本の参加企業は?、いわば皇居の象徴ともいえる二重橋の建築請負ということに、外国の商社が参入することに発注側は違和感を覚えなかったか等々、様々な興味が湧きます。
一外国商社が、明治から近代まで、国内の要望を受け、どのような品目を輸入してきたのか、ということは、その期間の日本が、どのような海外の商品を望んでいたか、ということに繋がります。今回の展示はいわば近代日本の輸入史ともいえるものだと思います。
展示品を眺めるうちに、日本人の新しい技術、商品への飽くなき好奇心を垣間見るような気持ちになりました。
横浜美術館の同時期の企画展より小粋で、数倍面白かった、と書くと、相当な嫌味になるでしょうか。
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<きょうのおまけ>
花=バラ。(今年の一番咲きのイレーネ・ワッツ:オールドローズ)、イタリアンパセリ
花器=瀬戸・花瓶(幕末)
花台=デルフト・タイル(19世紀)
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